大学事務のためのITリテラシー向上入門:なぜ必要?何から始める?
大学事務のDX推進に不可欠なITリテラシー
大学を取り巻く環境は急速に変化しており、デジタル技術を活用した変革、すなわちDXの推進は喫緊の課題となっています。学生サービスの向上、教職員の教育・研究活動の支援、そして大学運営全体の効率化。これらを実現するためには、ICTツールの導入やシステムの連携が不可欠です。
そして、この大学DXを現場で支え、実際に推進していく主役こそ、大学事務職員の皆様です。新しいツールを使いこなし、デジタル化された業務プロセスに対応するためには、ITに関する基本的な知識やスキル、すなわちITリテラシーが求められます。
「新しいツールに抵抗がある」「操作方法が複雑で覚えられない」「セキュリティが心配」など、ITに対して苦手意識をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ITリテラシーの向上は、決して難しいことではありません。一歩ずつ着実に学び、実践することで、日々の業務がより効率的になり、負担が軽減される可能性があります。
本記事では、大学事務職員の皆様がITリテラシーを高めることの重要性とその具体的なステップについてご紹介します。
なぜ大学事務にITリテラシーが必要なのか
大学事務におけるITリテラシーの向上は、多くのメリットをもたらします。
- 業務効率化と時間創出: オンライン会議ツールを使えば移動時間を削減でき、クラウドストレージでファイル共有を行えばメール添付の手間や容量制限から解放されます。申請ワークフローシステムを使えば紙での回覧が不要になり、承認プロセスが迅速化します。ITツールを効果的に活用することで、これまで時間を取られていた定型業務を効率化し、より付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。
- 新しいシステム・ツールへの適応: 大学全体で様々なデジタルツールやシステムが導入されています。ITリテラシーがあれば、これらの新しい環境にもスムーズに適応し、最大限に活用することが可能になります。
- 情報セキュリティの確保: デジタル化が進むにつれて、情報の取り扱いにはより一層の注意が必要です。ITリテラシーは、フィッシング詐欺への対策、強力なパスワードの設定、機密情報の適切な管理など、基本的な情報セキュリティ意識を高める上で重要です。
- 教職員・学生へのサポート力向上: オンライン授業や様々な学内システムに関する問い合わせが増える中で、事務職員自身がITに関する基本的な知識を持つことで、より適切かつ迅速なサポートを提供できるようになります。
- 自身のキャリアアップ: デジタル化は大学に限らず社会全体の流れです。ITスキルは、大学職員としての専門性を高め、キャリアの可能性を広げることにも繋がります。
「ITリテラシー」とは具体的に何を指すのか
ITリテラシーと聞くと、プログラミングのような専門的なスキルをイメージされるかもしれません。しかし、大学事務におけるITリテラシーは、もっと身近なものです。
一般的に、ITリテラシーは以下の要素を含みます。
- 情報基礎リテラシー: PCの基本操作、ファイルやフォルダの管理、タイピングなど、デジタルデバイスを操作する基礎的なスキル。
- 情報倫理・セキュリティリテラシー: インターネット上の情報モラル、個人情報の保護、情報セキュリティの基礎知識(ウイルス対策、不正アクセス対策など)。
- 情報通信リテラシー: インターネット検索による情報収集、メールの利用、オンライン会議ツールやチャットツールの活用など、情報通信ネットワークを利用するスキル。
- 情報活用リテラシー: Officeソフト(Word, Excel, PowerPoint)やクラウドベースのドキュメント作成・共有ツール(Google Docs, Sheetsなど)を使った文書作成、データ入力・集計、資料作成のスキル。また、業務に必要な情報を探し出し、分析し、活用する能力。
- AIリテラシー (近年注目): AIの基本的な概念を理解し、業務での活用可能性を考える力。
大学事務職員の皆様は、既に情報基礎や情報活用の一部(Officeソフト利用など)については高いスキルをお持ちの方も多いかと思います。これに加えて、クラウドツールの活用、情報セキュリティの意識向上、そして新しい技術への抵抗感をなくすといった部分が、今後のITリテラシー向上のポイントとなります。
大学事務がITリテラシーを高めるための具体的なステップ
では、具体的に何から始めれば良いのでしょうか。ITリテラシー向上に向けたステップをご紹介します。
Step 1: 現状のスキルと課題を把握する
まず、ご自身のITスキルについて冷静に振り返ってみましょう。「この操作が分からない」「このツールを使うのが苦手」といった具体的な課題をリストアップしてみるのも良いでしょう。また、日々の業務の中で「もっとこうなれば楽なのに」「この作業に時間がかかりすぎている」と感じる点を書き出してみてください。これらの課題が、ITリテラシー向上によって解決できるヒントになります。
Step 2: 学ぶ目標を設定する
漠然と「ITに詳しくなる」のではなく、具体的な目標を設定することが重要です。Step 1で洗い出した課題に基づき、「〇〇ツールを使って□□の作業ができるようになる」「ファイルを探す時間を半分にする」「オンライン会議の主催ができるようになる」など、達成可能で、かつご自身の業務に直結する目標を立てましょう。
Step 3: 具体的な学習方法を選び、実践する
目標が設定できたら、いよいよ学習です。様々な方法がありますので、ご自身に合ったものを選びましょう。
- 大学が提供する研修やサポート: 大学によっては、基本的なPC操作から特定のツールの使い方まで、職員向けの研修やeラーニングを用意している場合があります。まずは学内の情報をご確認ください。
- オンライン学習プラットフォーム: Coursera, edX, Udemy, N予備校など、幅広いIT関連講座を提供しているプラットフォームがあります。無料または比較的安価に学べるコースも多数あります。
- 公式ヘルプやチュートリアル: Microsoft 365やGoogle Workspaceなど、多くのツールには公式のヘルプページや使い方ガイドが充実しています。具体的な操作方法を知りたい場合に役立ちます。
- 技術解説サイトやブログ: 「大学DX推進ラボ」のような情報サイトや、個人のブログなどで、特定のツールや技術に関する解説を読むことも有効です。
- 職場の同僚や詳しい人に聞く: 分からないことは遠慮なく質問しましょう。同じ職場の先輩や同僚が、具体的な業務に即したアドバイスをくれることがあります。
- 実際に触ってみる: 何よりも、実際にツールを使ってみることが最も効果的な学習方法です。まずは簡単な機能から試してみましょう。テスト用のファイルを作成してみる、同僚と簡単なメッセージのやり取りをしてみるなど、失敗しても大丈夫な範囲で試行錯誤してみてください。
Step 4: 小さな成功体験を積み重ねる
一度に全てを習得しようとせず、小さなことから始めて成功体験を積み重ねることが自信に繋がります。例えば、「共有フォルダにファイルをアップロードしてみる」「オンライン会議の招待リンクを送ってみる」「簡単なアンケートフォームを作成してみる」など、日々の業務の中で少しずつデジタルツールを活用する機会を増やしてみましょう。
Step 5: 継続的な情報収集とアップデート
ITの世界は常に進化しています。一度学んだら終わりではなく、継続的に新しい情報に触れることが重要です。定期的に情報サイトをチェックしたり、大学からの情報発信に注意したりすることで、新しいツールの登場や既存ツールの機能改善について知ることができます。
ITリテラシー向上で変わる業務例
ITリテラシーが高まることで、具体的にどのような業務が変わるのでしょうか。
- 会議の準備・実施・議事録作成: オンライン会議ツールの使い方を習得すれば、場所を選ばずに会議に参加・主催できます。共有機能を使えば資料配布の手間がなくなり、録画機能を活用すれば議事録作成も効率化できます。(参考記事:大学事務のためのオンライン会議効率アップ術)
- ファイル管理と情報共有: クラウドストレージを理解すれば、大量の紙文書をデータ化して共有フォルダに整理し、必要な情報を素早く探し出せます。バージョン管理も容易になり、「どのファイルが最新版か分からない」といった問題が減ります。(参考記事:ファイル管理が変わる!大学事務が知っておくべきクラウドストレージの基本と活用例)
- 申請・承認業務: ワークフローシステムの利用に慣れると、紙の申請書を印刷・押印・回覧する手間が一切なくなります。外出先からでも承認が可能になり、業務のスピードが向上します。(参考記事:紙の申請手続きから卒業!大学事務のためのワークフローシステム活用術)
- アンケート実施と集計: オンラインフォーム作成ツールを活用すれば、紙のアンケートを配って回収・手入力で集計する作業から解放されます。回答は自動で集計され、グラフ化も容易です。(参考記事:紙のアンケートから卒業!大学事務が知るべきフォーム作成ツールの基本と活用例)
このように、ITリテラシーは特定のツールを使いこなすことだけでなく、それらを組み合わせて業務プロセス全体を効率化するための基盤となります。
まとめ:一歩踏み出す勇気が未来を変える
大学事務におけるITリテラシーの向上は、自身の業務を効率化し、負担を軽減するだけでなく、大学全体のDX推進に貢献するための重要なステップです。
「難しそう」「自分には無理」と最初から諦める必要はありません。まずは、ご自身の身近な業務で「これをデジタル化してみよう」という小さな目標を設定し、今回ご紹介したステップを参考に一歩踏み出してみましょう。
完璧を目指す必要はありません。少しずつ、着実にITスキルを身につけていくことが大切です。ITリテラシーは、これからの大学事務職員にとって強力な武器となり、あなたの働き方をより豊かに、より効率的なものに変えてくれるはずです。
この記事を読んで、ITリテラシー向上に少しでも関心を持っていただけたなら幸いです。まずは、普段使っているPCやスマートフォンの機能について調べてみることから始めてみてはいかがでしょうか。