もう備品を探し回らない!大学事務の棚卸し・所在管理を効率化するデジタルツール活用術
大学事務の隠れた負担:備品棚卸し・所在管理の現状課題
大学では、PCやプロジェクターなどのIT機器から、机、椅子、ホワイトボード、実験器具、各種備品に至るまで、多種多様な物品が日々利用されています。これらの備品の管理、特に定期的な棚卸しや、今どこにあるかを把握する所在管理は、多くの大学事務室にとって負担の大きな業務の一つとなっています。
紙の台帳やExcelファイルでの管理は、手入力の手間やミスの発生、複数部署での情報共有の難しさといった課題を抱えがちです。特に年に一度や数年に一度の棚卸しでは、広大なキャンパスや多数の部屋を巡り、実物と台帳を照合する作業に膨大な時間と労力がかかります。また、「あの備品、どこに行ったかな?」と探し回る経験がある方もいらっしゃるかもしれません。物品の所在が不明になると、新たな購入が必要になったり、資産状況が不正確になったりといった問題にもつながります。
このような備品管理の現状課題に対し、デジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)が有効な解決策となります。
DXで備品管理はどう変わるのか?
備品管理にデジタルツールを導入することで、以下のような変化が期待できます。
- 棚卸し作業の劇的な効率化: スマートフォンや専用端末で備品の識別コード(バーコードやQRコードなど)を読み取るだけで、台帳データと照合できます。手入力や紙のリストとの突き合わせが不要になり、時間と手間が大幅に削減されます。
- 正確な所在の把握: 備品の移動時や利用時にシステム上で情報を更新することで、リアルタイムに近い状態で「誰が」「どこで」使用しているかを把握できるようになります。
- 紛失・盗難リスクの低減: 所在が明確になることで、備品が適切に管理され、紛失や盗難のリスクを減らすことができます。
- 資産状況の可視化: 台帳情報がデジタル化され一元管理されるため、総資産額、カテゴリ別の備品数、購入時期などを容易に集計・分析できます。
- コスト削減: 無駄な重複購入を防ぎ、修理が必要な備品を早期に発見することで、長期的なコスト削減につながります。
- 情報共有の円滑化: 担当部署間や利用部署との間で、備品情報や利用状況をシステム上で共有できます。
備品管理DXを実現するためのステップ
実際に備品管理のDXを進めるには、どのように取り組めば良いのでしょうか。段階的なアプローチが現実的です。
ステップ1:現状の把握と課題の特定
まずは現在の備品管理プロセスを洗い出し、どのような点に時間や手間がかかっているか、どのような情報が不足しているかを特定します。対象となる備品の範囲(全学か、特定の部署か、特定の種類の備品かなど)や、達成したい具体的な目標(例: 棚卸し時間を〇〇%削減、所在不明率を〇%以下にするなど)を明確に設定します。
ステップ2:必要な機能の検討とツールの選定
現状の課題と目標に基づき、備品管理システムに求める機能を検討します。一般的に備品管理DXに役立つ機能としては以下のようなものがあります。
- 台帳機能: 備品名称、型番、購入日、金額、耐用年数、設置場所、管理者などの基本情報を登録・管理できる。
- 写真登録機能: 備品の外観写真を登録し、視覚的に確認できる。
- 履歴管理機能: 備品の移動、修理、廃棄、棚卸しなどの履歴を記録できる。
- 検索・絞り込み機能: 条件を指定して備品を素早く探し出せる。
- モバイル対応: スマートフォンやタブレットから情報の確認・更新ができる。
- 識別コード対応: バーコードやQRコードを生成・読み取りできる。
- 棚卸し機能: 読み取った実物情報と台帳情報を照合し、差異をリスト化できる。
- レポート・集計機能: 資産状況や利用状況などを集計し、レポートを作成できる。
これらの機能を参考に、自学の予算や既存システムとの連携などを考慮し、最適なデジタルツールを選定します。専用の資産管理・備品管理システムだけでなく、汎用的なデータベースツールや、ローコード/ノーコードで業務アプリを作成できるツールなども選択肢に入ります。重要なのは、現場の担当者が使いやすいと感じるツールを選ぶことです。
ステップ3:導入準備とデータ移行
選定したツールを導入し、既存の台帳データをシステムに登録します。紙の台帳やExcelデータからの移行作業は手間がかかりますが、正確性を期すことが重要です。必要に応じて、備品一つ一つにバーコードやQRコードのラベルを貼り付ける作業も行います。
ステップ4:運用ルールの策定と周知
システムを導入するだけでなく、「備品を移動させたらシステムで場所を更新する」「貸し出す際はシステムに記録する」といった、新しい運用ルールを明確に定め、関係者(事務職員、教員、必要であれば学生など)に周知徹底します。システムは、使われなければ効果を発揮しません。
ステップ5:運用開始と改善
まずは一部の部署や特定の種類の備品からスモールスタートし、システムの使い勝手や運用上の課題を確認します。運用しながら見つかった問題点を改善し、徐々に対象範囲を広げていくのが効果的です。定期的にシステムの利用状況を確認し、必要に応じて操作研修などを実施することも有効です。
具体的なデジタルツール活用例
デジタルツールを使った備品管理の具体的なイメージを掴んでみましょう。
- QRコードを活用した情報確認: 各備品にQRコードラベルを貼り付けます。スマートフォンでこのQRコードを読み取ると、その備品の名称、型番、購入日、設置場所、担当者といった情報をすぐに確認できます。
- 移動履歴の記録: 備品を別の部屋や部署に移動させる際、移動先の情報をシステム上で更新します。これにより、備品の現在の所在地が常にシステム上で確認できるようになります。
- 写真付き台帳: システムに備品の写真を登録することで、リストを見るだけでどのような備品か視覚的に判断できるようになります。特に類似品が多い場合などに役立ちます。
- 棚卸し作業の効率化: 棚卸し時期には、担当者がシステムをインストールしたスマートフォンを持って各部屋を回ります。備品に貼られたQRコードを読み取るたびに、システムが台帳と実物を照合し、差異(台帳にあるが見つからない、見つかったが台帳にないなど)を自動的にリストアップしてくれます。これにより、紙のリストとの手作業での突き合わせや、後でのPC入力作業が不要になります。
これらの機能は、専用の資産管理システムだけでなく、Google SheetsとGoogle Formsを組み合わせたり、Microsoft Listsを活用したり、あるいはFileMakerやkintoneのようなローコード/ノーコードツールを使って自学向けにカスタマイズしたアプリを作成したりすることでも実現可能です。自学のIT環境やスキルレベルに合わせて、最適な方法を検討することが重要です。
導入を成功させるためのポイント
- 関係部署との連携: 備品を利用する部署(学部、研究室、図書館など)や、IT担当部署と密に連携を取りながら進めることが不可欠です。現場のニーズを把握し、協力を得ることが成功の鍵となります。
- 段階的な導入: 一度に全ての備品を対象とするのではなく、まずは特定の種類の備品や特定の部署から試験的に導入し、運用ノウハウを蓄積するのがおすすめです。
- 操作研修とサポート: システムを導入しても、使い方が分からなければ浸透しません。利用者を対象とした簡単な操作研修を実施したり、問い合わせに対応できるサポート体制を整えたりすることが重要です。
- 定着のための継続的な働きかけ: 新しい運用ルールを定着させるためには、システム利用のメリットを繰り返し伝えたり、定期的にシステム利用状況を確認したりするなど、継続的な働きかけが必要です。
まとめ:備品管理DXで事務負担を軽減し、より戦略的な業務へ
備品の棚卸しや所在管理は、地味ながらも大学の資産管理や業務遂行の基盤となる重要な業務です。紙やExcelでの管理では避けられない非効率性や不正確性は、大学事務職員の大きな負担となっています。
デジタルツールを活用した備品管理DXに取り組むことで、これらの定型的な作業を効率化し、人的ミスを減らすことができます。これにより、事務職員はこれまで棚卸しや物品探しに費やしていた時間を、学生や教職員へのサービス向上、学内プロセスの改善といった、より付加価値の高い、戦略的な業務に振り向けることが可能になります。
まずは小さな範囲からでも構いません。現状の課題を整理し、どのようなツールが利用できそうか情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。備品管理のDXは、大学全体の効率化と資産の有効活用に繋がる一歩となるでしょう。