大学事務のための成績管理DX:教員とのやり取りからシステム入力まで効率化
大学事務の成績管理業務が抱える課題
大学事務における成績管理業務は、教務課をはじめとする多くの部署にとって非常に重要な役割を担っています。しかし、この業務には長年、多くの非効率や負担が伴ってきました。
- 成績提出方法の多様性と不統一: 教員によって、紙のリスト、Excelファイル、メール添付、あるいは個別のシステム入力など、成績の提出方法がまちまちである場合があります。これにより、事務職員は様々な形式のデータに対応する必要が生じます。
- 手入力によるシステム登録: 多くの大学では、教員から提出された成績データを職員が手作業で学務システムや基幹システムに入力しています。これは膨大な時間と労力を要するだけでなく、入力ミスが発生するリスクも高まります。
- 確認・照合作業の煩雑さ: 入力された成績が正確であるかを確認するために、提出された元データとシステム上のデータを照合する作業が必要です。この作業も手作業で行われることが多く、非常に手間がかかります。
- 成績変更対応の複雑化: 成績に関する問い合わせや変更依頼が発生した場合、関連部署や教員とのやり取り、システムの修正など、多くのステップを踏む必要があり、迅速な対応が難しい場合があります。
- 関連部署との連携不足: 成績情報は教務課だけでなく、学生課、就職課、研究科など、様々な部署で必要とされます。これらの部署間での情報共有や連携がスムーズに行われないことも課題となることがあります。
このような課題は、事務職員の長時間労働の一因となるだけでなく、成績データの正確性にも影響を及ぼしかねません。大学のDX推進は、これらの成績管理業務の負担を軽減し、より正確で効率的なプロセスを構築するための重要な鍵となります。
成績管理DXで何が変わるのか
成績管理にDXを取り入れることで、以下のような変化が期待できます。
- 成績提出プロセスの標準化と効率化: 教員が統一された方法で成績を提出できるようになり、事務職員のデータ処理負担が軽減されます。
- 手入力作業の大幅な削減: システム連携や自動化ツールを活用することで、手作業によるデータ入力の必要性が減り、入力ミスを防ぐことができます。
- 確認・照合作業の効率化: デジタル化されたデータとシステム上のデータの照合が容易になり、自動チェック機能なども活用できるようになります。
- 成績データの正確性向上: 入力ミスの削減やチェック体制の強化により、成績データの信頼性が向上します。
- 関連部署との情報連携強化: 成績データを一元管理し、必要な部署が必要な情報にアクセスできる仕組みを構築することで、部署間の連携がスムーズになります。
- 成績確定までの時間短縮: プロセス全体の効率化により、成績確定や成績証明書発行にかかる時間を短縮できます。
これらの変化は、事務職員の業務負担を減らし、より戦略的で創造的な業務に時間を割けるようになるだけでなく、学生へのサービス向上にも繋がります。
成績管理DXを推進するための具体的なツールと活用法
成績管理のDXを推進するために活用できる具体的なツールやアプローチはいくつかあります。
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LMS (Learning Management System) の成績管理機能の活用 多くの大学で導入されているLMSには、教員が担当科目の成績を直接入力・管理できる機能が備わっています。この機能を活用することで、教員からの成績提出をオンラインで行うことができます。
- 活用方法:
- LMS上で成績入力期間を設定し、教員に入力を促す。
- LMSの成績データをエクスポートし、学務システムに取り込む(システム連携が可能であればより効率的)。
- LMS上で成績の確認・修正依頼を受け付ける仕組みを構築する。
- メリット: 教員と事務職員の間で成績データがデジタルで受け渡されるため、紙やメール添付ファイルによる管理が不要になります。データの形式を統一しやすく、集計やシステム連携も比較的容易になります。
- 活用方法:
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ワークフローシステムの導入・活用 成績の提出、入力、確認、承認といった一連のプロセスをワークフローシステム上で定義し、自動化・可視化します。
- 活用方法:
- 教員からの成績提出申請、事務職員による入力完了報告、上長による確認・承認などをワークフロー化する。
- 提出期限や確認期限を設定し、遅延している場合は自動でリマインダーを送信する。
- 成績変更依頼の申請・承認プロセスをシステム上で行う。
- メリット: プロセスの進捗状況が可視化され、誰がどの段階で止まっているかが明確になります。承認フローが明確になり、責任の所在もはっきりします。関連部署間の連携もシステム上で行えるため、効率が向上します。大学向けの学務ワークフローシステムや、汎用的なワークフロー機能を備えたクラウドサービス(例: kintone, Box Relayなど)が活用できます。
- 活用方法:
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データ連携ツールの活用 LMSや特定の形式で提出されたExcelファイルなど、異なる場所に存在する成績データを学務システムなどの基幹システムに自動で取り込むためのツールです。RPA(Robotic Process Automation)も一部の定型的なデータ入力作業の自動化に有効です。
- 活用方法:
- LMSからエクスポートしたCSVデータを自動で学務システムにインポートするツールを導入する。
- 特定のフォーマットで提出されたExcelファイルから必要なデータを抽出し、システムに入力するRPAを開発・導入する。
- メリット: 手入力作業を極限まで削減できます。データの転記ミスがなくなり、正確性が向上します。ただし、システム間の連携には専門的な知識が必要な場合が多く、情報システム部門との密な連携が不可欠です。
- 活用方法:
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成績提出フォーマットの標準化とクラウドストレージの活用 直ちに大規模なシステム導入が難しい場合でも、教員に提出してもらう成績データのフォーマット(例:Excelテンプレート)を標準化し、共通のクラウドストレージ(例:Google Drive, Microsoft SharePoint/OneDrive, Boxなど)のフォルダにアップロードしてもらう方法です。
- 活用方法:
- 全教員に共通のExcelテンプレートを配布し、そのテンプレートでの提出を必須とする。
- 教員ごとにアクセス権を設定した専用のフォルダをクラウドストレージ上に作成し、そこにアップロードしてもらう。
- フォルダの更新通知機能を活用して、提出があったらすぐに把握できるようにする。
- メリット: システムを大きく変更することなく、比較的容易に導入できます。データの形式が揃うため、その後の入力や処理が効率化されます。提出状況の管理も共有フォルダ上で視覚的に行えます。
- 活用方法:
これらのツールやアプローチは、大学の既存システムや予算、組織体制によって最適なものが異なります。重要なのは、現在の成績管理業務のどこにボトルネックがあるかを正確に把握し、それに合った解決策を選択することです。
成績管理DXを進める上でのポイント
成績管理DXを成功させるためには、単にツールを導入するだけでなく、いくつかの重要なポイントがあります。
- 関係部署・教員との連携: 成績管理は教務課だけでなく、教員、情報システム部門、その他の関連部署が関わる業務です。DX推進にあたっては、これらの関係者と密に連携し、現状の課題や新しいプロセスのイメージを共有し、合意形成を図ることが不可欠です。特に、教員が新しい提出方法にスムーズに移行できるよう、丁寧な説明やサポートが必要です。
- 段階的な導入: 全学一斉に新しいシステムやプロセスを導入するのはリスクが高い場合があります。まずは特定の学部や学科、あるいは特定の種類の科目で試験的に導入し、課題や効果を検証しながら段階的に展開していく方法が現実的です。
- 業務フローの見直し: 既存の業務フローをそのままデジタル化するだけでは、非効率が解消されない場合があります。DXを機に、本当に必要な作業か、もっと効率的な手順はないかをゼロベースで見直すことが重要です。
- セキュリティとプライバシーへの配慮: 成績情報は非常に機密性の高い個人情報です。デジタル化にあたっては、データの保管、送受信、アクセス権限設定など、厳重なセキュリティ対策と個人情報保護への配慮が求められます。
まとめ:成績管理DXで、より正確で負担の少ない業務へ
大学事務における成績管理業務は、これまでの紙や手作業中心の運用から脱却し、デジタル技術を活用することで、飛躍的に効率化し、正確性を向上させることが可能です。LMSの成績管理機能、ワークフローシステム、データ連携ツール、あるいはクラウドストレージの活用など、様々なアプローチが考えられます。
DXは単なるITツールの導入ではなく、業務プロセスそのものを見直し、関係者全員でより良い方法を模索する取り組みです。成績管理のDXは、事務職員の負担を軽減し、本来注力すべき学生支援や教育研究支援により多くの時間を割けるようになるための重要な一歩となります。
まずは、現在の成績管理業務の具体的な課題を洗い出すことから始めてみてはいかがでしょうか。そして、教員や情報システム部門と協力しながら、段階的にDXの取り組みを進めていくことを推奨いたします。
この記事が、皆様の大学における成績管理業務の効率化・DX推進の一助となれば幸いです。