大学事務のための監査対応DX入門:書類の山から解放される効率化のヒント
大学監査対応における事務職員の負担とDXの可能性
大学では、定期的な監査(自己点検・評価、認証評価、文部科学省の監査、科研費監査など)が実施されます。これらの監査において、大学事務職員の方々は膨大な量の書類やデータの収集、確認、提出、そして説明対応に追われることが少なくありません。紙の資料を探し出す手間、関係部署との連携の難しさ、そして限られた準備期間の中での作業は、大きな負担となっていることと存じます。
このような監査対応業務においても、デジタル変革(DX)の考え方を取り入れることで、業務の効率化、負担軽減、そして対応精度の向上を図ることが可能です。本記事では、大学事務における監査対応をテーマに、DXを活用した効率化のヒントをご紹介します。
監査対応業務における現在の課題
多くの大学事務において、監査対応の準備は以下のような課題を抱えているケースが考えられます。
- 書類・情報の散在: 必要な証拠書類やデータが部署ごと、あるいは個人のファイルで管理されており、どこに何があるか探し出すのに時間がかかる。
- 紙ベースでの管理: 重要な規程や過去の対応履歴、エビデンスとなる書類が紙のまま保管されており、物理的なスペースを圧迫し、検索も手作業になりがち。
- 情報共有の非効率: 監査項目に対応する情報を関係部署から収集したり、進捗状況を共有したりする際に、メールや内線、対面でのやり取りが多く、タイムラグが生じやすい。
- バージョン管理の混乱: 複数の担当者が同じ資料を準備する際に、どのファイルが最新版か分からなくなり、確認や修正に手間取る。
- 提出作業の負担: 監査機関への提出書類が多い場合、印刷、製本、郵送といった物理的な作業に多くの時間を要する。
- セキュリティリスク: 機密性の高い情報を扱うため、紙媒体の持ち運びや保管には紛失・漏洩のリスクが伴う。
これらの課題は、監査対応の直前になって慌ただしく作業を進める原因となり、担当者の心理的な負担を増大させます。
DXで監査対応業務はどう変わるか
DXを推進することで、監査対応業務を以下のように改善できる可能性があります。
- 情報の一元管理と検索性向上: 関連する書類やデータをデジタル化し、一元的に管理することで、必要な情報を迅速に探し出せるようになります。
- 関係者間のスムーズな連携: クラウド上のツールを活用し、リアルタイムでの情報共有や共同編集が可能になり、確認やフィードバックのやり取りが効率化されます。
- 進捗状況の可視化: 誰が何をいつまでに準備する必要があるか、全体の進捗状況を関係者全員が共有できる仕組みを構築できます。
- 提出プロセスの効率化: 電子的な形式での提出が可能になれば、印刷や郵送の手間が省け、迅速かつ確実に資料を提出できます。
- セキュリティの強化: アクセス権限設定やログ管理が可能なシステムを利用することで、機密情報のセキュリティレベルを高めることができます。
監査対応を効率化する具体的なDXツール・手法
読者ペルソナである大学事務職員の方々が、比較的導入しやすく、監査対応に役立つ具体的なツールや手法をご紹介します。
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クラウドストレージと文書管理システムの活用
- 目的: 監査に必要な規程、議事録、報告書、契約書などの証拠書類を電子化し、一元的に安全に管理します。
- 活用例:
- 監査項目ごとにフォルダを作成し、関連書類をアップロードする。
- ファイル名に規則性を持たせたり、タグ付け機能を活用したりして検索性を高める。
- アクセス権限を設定し、必要な担当者だけが閲覧・編集できるようにする。
- バージョン管理機能を活用し、ファイルの更新履歴を確認できるようにする。
- 期待される効果: 書類を探す手間が大幅に削減され、最新版の資料に常にアクセスできます。物理的な保管スペースも不要になります。
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情報共有ツールの活用(例: Microsoft Teams, Slack, Google Workspaceなど)
- 目的: 監査準備に関する関係者間のコミュニケーションと情報共有を円滑にします。
- 活用例:
- 監査対応用のチームやチャンネルを作成し、関係者間で進捗状況や課題を共有する。
- 不明点や確認事項をリアルタイムでやり取りする。
- 会議のスケジュール調整や議事録共有を行う。
- ファイル共有機能を活用し、監査資料の確認・修正を共同で行う。
- 期待される効果: 関係部署との連携がスムーズになり、情報伝達の遅れや漏れを防ぎます。
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ワークフローシステムの活用
- 目的: 監査資料の最終確認や承認プロセスをデジタル化し、効率化します。
- 活用例:
- 作成した監査資料の承認ルートを設定し、システム上で回覧・承認を行う。
- 誰の承認が済んでいないか、進捗状況をシステムで管理する。
- 期待される効果: 承認作業の滞留を防ぎ、プロセスを迅速化できます。紙の承認書類の回覧や紛失のリスクもなくなります。
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オンラインフォーム作成ツールの活用(例: Google Forms, Microsoft Formsなど)
- 目的: 関係部署からの情報収集や、簡単な自己点検アンケートなどに活用します。
- 活用例:
- 特定の監査項目に関する現状確認のためのアンケートを作成し、関係部署に回答を依頼する。
- 収集したデータを自動的に集計し、分析に活用する。
- 期待される効果: 手作業での情報収集や集計の手間を減らし、迅速なデータ把握が可能になります。
監査対応DX推進のステップ
監査対応業務にDXを取り入れるための一般的なステップをご紹介します。
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現状の課題と必要な情報の棚卸し:
- 現在の監査対応プロセスにおける非効率な部分やボトルネックとなっている作業を洗い出します。
- 過去の監査で求められた書類やデータ、その提出形式などを確認し、今後必要となる情報を整理します。
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デジタル化・一元化の計画:
- 紙で保管されている重要な証拠書類をスキャンしてデジタル化する計画を立てます。
- どのツールを使って情報を一元管理するかを検討します。既に大学で導入済みのクラウドストレージや文書管理システムがあれば、それを活用するのが第一歩として現実的です。
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ツールの選定と導入(既存ツール活用または新規導入):
- 課題解決に役立つツールを選定します。まずは、普段使い慣れているOffice 365やGoogle Workspaceに含まれる機能(SharePoint, OneDrive, Google Drive, Teams, Formsなど)から試してみるのがおすすめです。
- 必要に応じて、より高度な文書管理システムやワークフローシステムの導入を検討します。
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運用ルールの策定と関係者への周知:
- デジタル化した書類のファイル名規則、保管場所、アクセス権限などの運用ルールを明確に定めます。
- 関係部署や担当者に対して、新しいツールの使い方や運用ルールを丁寧に周知し、理解と協力を求めます。説明会や簡単なマニュアル作成も有効です。
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段階的な導入と改善:
- 一度にすべての監査対応業務をデジタル化するのは難しい場合、まずは特定の監査項目や一部の部署から試行的に導入し、効果を検証しながら対象を広げていく方法が考えられます。
- 実際に運用しながら、課題点や改善点を見つけ、柔軟にルールやツールの使い方を調整していきます。
監査対応DXによるメリット
監査対応業務をDX化することで、事務職員の方々には以下のようなメリットが期待できます。
- 業務負担の大幅な軽減: 書類探し、確認、提出といった定型的な作業時間が削減されます。
- 準備期間の短縮: 必要な情報に素早くアクセスできるため、準備期間を効率的に活用できます。
- 対応精度の向上: 最新かつ正確な情報に基づいた対応が可能になり、監査指摘リスクを減らせます。
- 関係者間の連携強化: スムーズな情報共有により、関係部署と協力して効率的に作業を進められます。
- 日常業務への好影響: 監査対応のために構築した情報管理や共有の仕組みは、日常業務の効率化にも応用できます。
まとめ:監査対応の効率化に向けて第一歩を踏み出す
大学監査対応は、多忙な事務職員にとって大きな負担となる業務の一つです。しかし、文書管理システムや情報共有ツールといった身近なDXツールを活用することで、その負担を大きく軽減し、効率的かつ正確な対応を実現することが可能です。
まずは、現在抱えている監査対応の課題を具体的に把握し、手持ちのツールで何ができるかを検討することから始めてみてはいかがでしょうか。小さな一歩からでも、デジタル化による効率化のメリットを実感できるはずです。
本記事が、大学事務における監査対応のDX推進のヒントとなれば幸いです。