大学事務が失敗しない!DX推進のためのITツール選定・導入入門
はじめに:なぜ今、ITツール導入が重要なのか
大学の事務業務において、デジタル技術を活用した業務効率化、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)は喫緊の課題となっています。紙ベースの煩雑な手続き、システム間の連携不足、増大するオンライン関連の業務支援など、現場には様々な非効率が存在しています。
これらの課題を解決し、限られた時間の中でより付加価値の高い業務に注力するためには、適切なITツールの導入が有効な手段となります。しかし、「どのようなツールがあるのか」「うちの部署に合うツールはどれか」「導入って難しそう」「職員が使いこなせるか不安」といった疑問や懸念をお持ちの方も少なくないでしょう。
本記事では、大学事務職員の皆様がDXを推進するために、ITツールをどのように選び、そして現場に定着させる形で導入を進めれば良いのか、その基本的な考え方と具体的なステップについて解説します。
ITツール選定・導入における大学事務の課題
大学事務におけるITツールの選定や導入には、特有の難しさがあります。
- 業務の多様性: 学務、教務、入試、研究、国際交流、人事、経理、広報など、事務部門の業務は多岐にわたり、それぞれに適したツールが必要です。
- 関係者の多さ: 学生、教員、職員、保証人、外部機関など、多くの関係者が関わるため、ツール導入の影響範囲が広くなります。
- 既存システムとの連携: 既に稼働している基幹システムや他のツールとの連携を考慮する必要があります。
- 職員のITリテラシーのばらつき: デジタルツールへの習熟度は職員によって異なり、全員がスムーズに利用できるようにするための配慮が求められます。
- 予算と意思決定プロセス: 公的な組織である大学では、ツールの選定や導入、予算確保に慎重な検討と合意形成のプロセスが必要です。
これらの課題を踏まえ、失敗しないツール選定・導入を進めるためのステップを見ていきましょう。
失敗しないためのITツール選定ステップ
やみくもに最新のツールを導入するのではなく、以下のステップで自組織に最適なツールを選びましょう。
ステップ1:現状業務の「見える化」と課題の特定
まずは、現在行っている業務プロセスを詳細に洗い出し、「見える化」することから始めます。どのような作業にどれくらいの時間がかかっているのか、どこで滞留が発生しやすいのか、どのような情報がどこに集まっているのかなどを具体的に把握します。
その上で、以下のような課題を特定します。
- どの業務に非効率を感じているか(例: 紙の書類作成・回覧に時間がかかる、データの転記作業が多い)
- どのような問題が発生しているか(例: 申請書類の紛失、教職員への連絡漏れ、最新情報の把握が難しい)
- これらの課題は、ITツールによって解決可能か
このステップを丁寧に行うことで、ツール導入の目的が明確になります。
ステップ2:ツール導入の目的と必要な機能(要件)の定義
特定された課題を解決するために、ツール導入によって何を実現したいのか、具体的な目的を設定します。
(目的例) * 紙の申請業務を廃止し、処理時間を50%削減する * 教職員間の情報共有スピードを向上させる * 学生からの問い合わせ対応にかかる時間を削減する
次に、これらの目的を達成するために、どのような機能が必須なのか、あるいはあると望ましいのかといった「要件」を定義します。
(要件例) * 申請フォームを簡単に作成できること * 承認フローを柔軟に設定できること * 部署や役職に応じたアクセス権限を設定できること * 既存の学内システム(例: 人事システム)と連携できること * スマートフォンからも利用できること * 操作が直感的で分かりやすいこと
この段階で、漠然としたイメージではなく、具体的な機能や性能、予算上限などを明確にすることが重要です。
ステップ3:情報収集と比較検討
要件定義に基づき、市場にある様々なツールの中から候補を絞り込みます。情報収集の方法としては、以下のようなものが考えられます。
- インターネットでの検索(大学DX、業務効率化ツール、〇〇システムなど)
- IT関連の展示会やセミナーへの参加
- 同業他校(他の大学)での導入事例を調べる
- ITベンダーからの情報提供を受ける
候補となるツールが見つかったら、ステップ2で定義した要件を満たしているか、価格帯は適切か、サポート体制はどうかなどを比較検討します。多くのツールで無料トライアルやデモンストレーションが提供されているため、積極的に活用してみましょう。
ステップ4:現場でのテストと評価
候補ツールの中からいくつかのツールをピックアップし、実際の業務に近い形でテスト利用を行います。できれば、実際にそのツールを利用することになる現場の職員にも協力してもらい、操作性や業務への適合性を評価してもらいます。
この段階で、使いやすさ、必要な機能が不足していないか、想定される課題(例: 特定の作業が煩雑になる)はないかなどを具体的に確認することが、導入後のミスマッチを防ぐ上で非常に重要です。
ステップ5:導入ツールの決定と準備
テスト利用の結果や比較検討の内容を踏まえ、最終的に導入するツールを決定します。導入が決定したら、導入計画(スケジュール、担当者、必要な設定作業、データ移行方法など)を詳細に立案し、導入に向けた準備を進めます。
現場に定着させるためのITツール導入ステップ
ツールを選んだだけではDXは実現しません。現場で実際に使われ、業務の効率化につながる形で「定着」させることが重要です。
ステップ1:導入計画の実行と環境構築
立案した導入計画に基づき、ツールの導入作業を実行します。具体的には、ツールの初期設定、必要なアカウントの発行、過去データの移行、既存のシステムとの連携設定などを行います。ベンダーのサポートを受けながら、計画通りに進めることが大切です。
ステップ2:職員への丁寧な説明とトレーニング
新しいツールを導入する際、最も重要なステップの一つが「なぜそのツールを使うのか」「どのように使えば良いのか」を職員に丁寧に伝えることです。
- 導入の目的とメリットの共有: ツール導入が単なる負担増ではなく、自身の業務をどのように効率化し、全体の生産性向上につながるのかを具体的に説明します。
- 操作研修の実施: ツールの基本的な使い方から、実際の業務を想定した操作方法まで、習熟度に合わせて丁寧に研修を行います。少人数での実施や、繰り返し受講できる機会を設けることも有効です。
- 分かりやすいマニュアルの作成: ベンダー提供のマニュアルだけでなく、大学の具体的な業務プロセスに沿ったオリジナルマニュアルを作成すると、現場での疑問解消に役立ちます。
- 気軽に質問できる体制: 質問担当者を決めたり、Q&A集を作成したりするなど、職員が分からないことを気軽に質問できる環境を整えます。
ステップ3:運用開始とフィードバック収集
いよいよツールの本格運用を開始します。運用開始後は、実際にツールを利用している職員からのフィードバックを積極的に収集します。
- 使いにくい点はないか
- 想定通りに業務が進んでいるか
- 改善してほしい機能はないか
こうした現場の声に耳を傾け、運用方法の改善やツール設定の調整に活かすことが、定着率を高める鍵となります。
ステップ4:効果測定と継続的な改善
ツール導入から一定期間経過したら、事前に設定した目的(例: 処理時間の削減率、問い合わせ件数の変化)が達成されているかを測定します。期待した効果が出ていない場合は、原因を分析し、運用方法の見直しや追加のトレーニング実施などを検討します。
DXは一度ツールを導入したら終わりではありません。継続的にツールの利用状況を確認し、必要に応じて改善を重ねていく姿勢が重要です。
失敗しないための追加ポイント
- スモールスタートを検討する: 全学一斉導入ではなく、特定の部署や一部の業務からスモールスタートで導入し、成功事例を積み上げてから拡大していく方法もあります。
- ベンダーの選定も慎重に: ツールの機能だけでなく、ベンダーのサポート体制(導入支援、運用後の問い合わせ対応など)や、大学での導入実績なども考慮して選定しましょう。
- セキュリティ対策を確認する: 大学の情報資産を扱うため、ツールのセキュリティ対策(データ暗号化、アクセス管理、認証方法など)についても、ベンダーに確認し、学内のセキュリティポリシーに合致しているかを確認することが不可欠です。
まとめ:ITツール導入はDX推進の重要な一歩
大学事務におけるITツールの選定と導入は、DX推進を成功させるための重要な一歩です。単に新しいシステムを導入するだけでなく、現状の業務を深く理解し、明確な目的を持ってツールを選び、そして職員が抵抗なく利用できるよう丁寧な導入プロセスを踏むことが、失敗しないための鍵となります。
もし、どのツールを選べば良いか分からない、導入プロセスに不安があるといった場合は、まずは身近な業務で使える無料または低価格のツールから試してみるのも良い方法です。小さな成功体験を積み重ねながら、大学全体のDXを推進していきましょう。
本記事が、皆様のITツール選定・導入の一助となれば幸いです。