大学事務のための研究活動支援DX入門:研究費・申請業務の効率化のヒント
研究活動を支える事務業務の重要性と課題
大学における研究活動は、学術の発展、社会貢献、そして大学のプレゼンス向上に不可欠です。そして、その最前線で研究者を力強く支えているのが、私たち大学事務職員の皆様です。研究費の申請・管理、倫理審査、外部機関との連携、成果報告など、研究活動には多岐にわたる事務手続きが伴います。
これらの業務は専門性が高く、正確性が求められる一方で、そのプロセスが複雑であったり、紙ベースの手続きが残っていたりすることで、多くの時間と労力を要しているのが現状ではないでしょうか。
- 研究者からの問い合わせが多く、対応に時間がかかる
- 申請書類の準備や確認、提出、承認プロセスが煩雑で時間がかかる
- 研究費の予算管理や執行状況の把握が手作業になりがち
- 部署内や研究者との情報共有がうまくいかず、確認作業が増える
- 過去の申請書類や関連情報の検索に手間がかかる
これらの課題は、事務職員の負担を増やすだけでなく、研究活動の円滑な遂行を妨げる要因ともなり得ます。このような状況を改善し、より効率的に、より質の高い研究活動支援を実現するために、デジタル変革(DX)の視点を取り入れることが有効です。
研究活動支援事務におけるDXの可能性
研究活動支援事務にDXを導入することで、様々なメリットが期待できます。単に業務をデジタル化するだけでなく、プロセスの抜本的な見直しにつながることもあります。
- 申請・承認プロセスの劇的な効率化 紙での申請書作成、押印、部署間の回覧といったプロセスを、ワークフローシステムや電子署名を活用することでオンライン化できます。これにより、申請状況の可視化、承認までの時間短縮、差し戻し時の対応効率化などが実現します。
- 情報の一元管理と共有の促進 研究課題情報、研究費情報、関連書類、研究者連絡先などをシステム上で一元管理することで、「あの書類はどこへ行ったか」「最新の情報はどれか」といった検索や確認の手間を削減できます。クラウドストレージや専用のデータベースシステムが有効です。
- 研究者とのコミュニケーション円滑化 情報共有プラットフォーム(例:Microsoft Teams, Slackなど)や、問い合わせ管理システム(FAQシステムやチャットボットの一部活用)を導入することで、研究者からの問い合わせへの迅速な対応や、必要な情報の効率的な提供が可能になります。
- データ集計・報告業務の効率化 研究費の執行状況や研究活動の成果に関するデータ収集・集計・報告といった定型業務を、システム連携や自動化ツール(RPAなど)を活用することで、大幅に効率化できます。手作業によるミスも減らせます。
- コンプライアンス強化とセキュリティ向上 デジタル化されたプロセスは証跡が残りやすく、監査対応が容易になります。また、適切なアクセス権限管理やセキュリティ対策を施したシステムを利用することで、機密性の高い研究情報の漏洩リスクを低減できます。
具体的なDX推進のステップと活用ツール例
では、実際に研究活動支援事務のDXをどのように進めれば良いのでしょうか。まずは、以下のステップを参考に、身近な業務から着手してみてはいかがでしょうか。
ステップ1:現状業務の「見える化」と課題の特定
現在行っている研究活動支援に関する事務業務フローを書き出してみましょう。特に、時間や手間がかかっている作業、非効率だと感じている部分、研究者や他部署との間で摩擦が生じやすい部分などを特定します。
- 例:研究費の申請書類準備→研究者確認→事務内確認→押印→他部署回覧→提出... このプロセスの中でどこにボトルネックがあるか?
ステップ2:小さな課題からデジタルツールで改善を試みる
いきなり大規模なシステム導入を考える必要はありません。身近なツールを使って、特定の課題解決から始めてみましょう。
- 煩雑な申請書類の回覧・承認に:
- ツール例: 既に導入済みの可能性が高いMicrosoft 365に含まれるSharePointやPower Automate(旧Flow)、Google WorkspaceのGoogleフォーム、App Sheetなど。または、学内ワークフローシステム。
- 活用例: Googleフォームで申請内容を入力させ、自動でスプレッドシートに集約。承認が必要な場合は、Power Automateなどで承認ルートを設定し、メールやTeams通知で承認依頼を送る。電子署名サービスと連携し、押印を不要にする。
- 研究費の予算管理や報告書の作成に:
- ツール例: Excel, Google Sheets(基本的なツール)、学内会計システム、研究費管理システム。
- 活用例: Google Sheetsで研究者と予算情報を共有し、共同で入力・確認を行う。会計システムからデータを抽出し、ExcelやSheetsのピボットテーブル機能などで集計・分析する。将来的に、システム連携による自動集計を目指す。
- 研究者との情報共有や問い合わせ対応に:
- ツール例: Microsoft Teams, Slack, SharePoint, Confluence(情報共有Wikiツール), Google Drive。
- 活用例: Teamsなどで研究室ごとにチームを作り、必要な情報(学内規程、申請様式、締切情報など)を共有フォルダにまとめる。よくある質問とその回答をSharePointなどでFAQとして整備し、研究者がいつでも参照できるようにする。
ステップ3:関係者(研究者、他部署)との連携を模索する
事務職員だけで進めるのではなく、実際に業務を共にする研究者や関連部署と課題意識を共有し、デジタルトランスフォーメーションのメリットを伝えることが重要です。意見交換を通じて、より効果的な改善策が見つかることもあります。
- 「この部分をデジタル化すれば、先生方の書類準備の手間も減らせますよ」といった具体的なメリットを提示する。
- ツールの操作説明会を実施するなど、利用促進に向けたサポートも検討する。
ステップ4:効果測定と横展開
導入したツールやプロセス変更の効果を測定し、改善を続けます。成功した事例は、他の研究活動支援業務や他の部署にも展開していくことを検討しましょう。
DXを成功させるためのポイント
- 完璧を目指さない: 最初から全ての業務を完璧にデジタル化しようとせず、まずは効果の出やすい部分、負担が大きい部分から着手することが成功の鍵です。
- 既存ツールの活用: 新しいツールを導入する前に、現在大学で利用できるツール(Microsoft 365やGoogle Workspaceなど)にどのような機能があるかを確認し、活用できるものから使ってみましょう。
- ITリテラシー向上: 事務職員自身のITツールへの慣れや理解は、DX推進の基盤となります。積極的に学習の機会を設けたり、分からないことを気軽に聞ける環境を作ったりすることも重要です。
- ベンダーとの連携: 研究活動支援に特化したシステムなど、専門的なソリューションを検討する際は、実績のあるベンダーと協力し、自学のニーズに合ったシステムを選定することが大切です。
まとめ:一歩ずつ進める研究活動支援のDX
研究活動支援に関する事務業務のDXは、事務職員の皆様の日常的な負担を軽減し、研究者が本来の研究活動に集中できる環境を整備するために非常に有効です。紙ベースの煩雑な作業や、システム連携の不足といった課題は、デジタルツールの適切な活用や業務プロセスの見直しによって確実に改善できます。
今回ご紹介した内容は、その第一歩となるヒントに過ぎません。まずは身近な課題から目を向け、小さな改善から始めてみましょう。その一歩が、大学全体の研究力強化、ひいては大学の発展に繋がるはずです。